- Google のインダストリアル デザイナーに、Google Pixel 10a に込めたデザイン哲学を聞きました。
- シリーズ史上初となる完全にフラットな背面は、過去 10 年間、最適な使い心地を追求してきた成果です。
- 200 台以上の試作を経ながら、見た目と機能の両立を実現しました。
手頃さと実用性を兼ね備える Google Pixel A シリーズに、新たに Google Pixel 10a が登場しました。AI を搭載した性能面はもちろん、数値以上に軽く感じる重心設計やカメラ部分の出っ張りをなくしたフラットな背面など、デザイン面でもより洗練された 1 台になっています。
Google Pixel が歩んできた 10 年の進化を経て、ますます「定番」として選ばれるようになってきた A シリーズ。今回は、2016 年から Google Pixel スマホのハードウェアデザインを務めてきた日本人デザイナー、松岡良倫(まつおか よみ)へのインタビューを通じて、Google Pixel 10a に宿るデザイン哲学をひもときます。
「最初に比べて冒険はちょっと減ってきたかもしれないけれど、それはある意味では、定番になってきたということ。工具として熟成してきたように感じています」
Google Pixel の 10 年間の進化をそう振り返るのは、インダストリアル デザイナーの松岡良倫。2011 年に Google に参画し、2016 年に生まれた Google Pixel シリーズのすべてのモデルに携わってきた彼は、誰よりもこのスマートフォンの歴史を知る 1 人です。
この 10 年の間に、最初は他社に委託していた製造は自社で行うようになり、チップも自社開発をするようになりました。また、新しい機能の試行錯誤を毎年のように繰り返していた初期から、時代とともに人々が求める「Google Pixel らしさ」が定まっていくことになりました。そのような変化はあれど、常に一貫していたのは「Google のソフトウェアをいちばん使いやすいハードウェア」を追求してきたことだと松岡は語ります。
Google Pixel の中でも、松岡がより手に取ってもらいやすい A シリーズの開発に特に誇りを感じているのは、彼がスマホを「人々の生活を支える工具」と捉えているから。中学生の頃に初めてお小遣いで買ったのは、当時最先端だったポータブルオーディオプレイヤー。このプレイヤーをポケットに入れて外出先にも持ち運び、テープが擦り切れるまで音楽を聴いていた原体験があるからこそ、1 つのデバイスに「暮らしを変える力」があることを彼は知っているのです。
「シンプルなんだけども、ユーザーの邪魔をすることなく、やりたいことを叶えてくれる──例えて言えば、和包丁のような定番をつくりたい。A シリーズを通して、一番使いやすい工具を、なるべく多くの人たちに届けたいと思っています」
そうした工具としての Google Pixel をデザインする自身の仕事を、「見た目と機能を両立させるために、『内部構造の進化』を『最適な使い心地』へと翻訳すること」だと松岡は説明します。そして Google Pixel 10a にも、随所にその「翻訳」を見ることができます。
例えば、手に持った瞬間に軽さを感じられる重心設計や持ちやすさは、スマホとしての最適なパフォーマンスを発揮しつつも、最も使い心地の良い形状を突き詰めていくことで生まれたもの。デザインの初期段階では、デザイナーが考えた形状が、SIM スロットやバッテリーを配置するにあたり実現可能かをメカ設計部門と相談しながら、試作・検証・調整を繰り返していきます。約 2 年、200 台以上の試作を経ながら、「見た目」と「機能」と「製造における実現可能性」が共存するポイントを探っていったといいます。
また Google Pixel 10a の最大の特徴である「完全にフラットな背面」も、辛抱強く最適な使い心地を追求してきたからこそ生まれた成果です。カメラ性能の向上とともに背面カメラの出っ張りがあるモデルが続いてきた中で、フラットな背面が実現できたのは、「どこまでならシャーシ(本体の骨格となるアルミニウム製フレーム)を削っても耐久性の点で問題ないか」という経験値が 10 年の間にたまってきたから。デザインチームが 0.1mm 単位で部品を薄くしながら、レンズの開発チームとともに緻密な設計を積み重ねていったことで、機能を妥協することのないまま、フラットな背面を実現することができました。
「カメラの出っ張りがあると、どうしても机の上でガタガタしてしまいますが、Google Pixel 10a ではまったくその心配はありません。これまでのシリーズの中でも、特にこれは『手に取りたくなる工具』に仕上げることができたと思っています。先ほどの和包丁の例えを使えば、買ってきた魚をさばこうと思ったときに、パッと最初につかみたくなる工具になっていると思うんです」
松岡がバンパーケースを作りたかった理由は、「こだわり抜いて生まれた筐体を、直接手で感じてもらいたい」からです。しかし同時に、表側をぶつけてしまうと、スクリーンが割れる可能性があることも理解している。だからこそ、側面とディスプレイを保護しながら背面は本体をむき出しにしたまま使えるバンパーケースは、理想的なバランスを叶えるプロダクトなのだといいます。
「今回、HERALBONY さんとのコラボに合わせて日本のチームが強く背中を押してくれたことで、ついにプロジェクトが動き出しました。Google Pixel 10a の完全フラットなデザインに最高にマッチするこのバンパー、同僚たちも『やっと形にできた』と大喜びしています」と松岡は振り返ります。今回のコラボレーションは、限定カラーを追加するだけにとどまらず、Google Pixel スマホのデザインの可能性をも押し広げることになったのでした。
10 年にわたって Google Pixel のデザインを手がけてきた松岡は、日々スマホに向き合いつつも、「スクリーンから離れる時間」も大切にしています。アイデアに行き詰まったときはデスクを離れて、カイトサーフィンやピックルボール(アメリカ発祥のテニス、バドミントン、卓球の要素を組み合わせたスポーツ)をして身体を動かす。仕事を忘れて、趣味に没頭している時間にこそ、閃きが訪れるのだといいます。
そんな松岡がインダストリアル デザイナーとして自身のライフタイムテーマだと語るのは、人々をスクリーンから解放すること。スマホが便利になり、スクリーンからあらゆる情報を得られるようになったがゆえに、私たちがそれに縛られてしまっている現状を、デザイナーとして解決したい。テクノロジーに制約されるのではなく、テクノロジーと上手に付き合っていけるような工具を、Google Pixel を通して考えていきたいと松岡は語ります。
「2040 年になったときに現代を振り返ってみたら、『あんなにスマホを見つめていた時代もあったんだね』と言われるようになると思うんです。スクリーンに頼りすぎない未来に早く行けるように、これからの Google Pixel のあり方を考えていきたいですね」
そのときの Google Pixel がどんな形をしているのかは、まだ誰にもわかりません。でもそんな未来が訪れたときには、「スマホでの用事はパパっと済んで、すぐに顔を上げることができるようになるはずです」と松岡は言います。「スクリーンよりも、空を見上げていたほうが絶対にいいじゃないですか」