柴田文江さんとアイビーロス: テクノロジーデザイン対談

プロダクト デザイナーの柴田文江さん、Google アイビー ロスが語る「テクノロジーに手触りを与えるということ」

世界最大規模のデザインイベント「ミラノ デザイン ウィーク」。その会場で、柴田文江(しばた ふみえ)さんと、Google デバイスのチーフ デザイン オフィサーであるアイビー ロスが対談を行いました。
*本記事は、Google から柴田さんに商品提供等の上、ご自身の利用体験をもとに対談を実施し制作したものです。

Google のハードウェア製品が並んだ展示室。写真左が Google デバイスのチーフ デザイン オフィサーであるアイビー ロス、右がプロダクト デザイナーの柴田文江さん。
Google のハードウェア製品が並んだ展示室。写真左が Google デバイスのチーフ デザイン オフィサーであるアイビー ロス、右がプロダクト デザイナーの柴田文江さん。

「世界の反対側に、同じ考え方を持つデザイナーがいることを知れてうれしかった」── Google でハードウェア製品のデザイン部門を率いるアイビー ロスがそう語ったのは、プロダクト デザイナーの柴田文江さん。

家電から医療機器、チェアにスーツケースまで、国内外のさまざまなメーカーのプロジェクトを手掛ける柴田さんとロスが共に大事にするのは、使い手がより人間らしくいられるためのデザインをすること。毎年 4 月にイタリア・ミラノで開催される「ミラノ デザイン ウィーク」を訪れた二人が、自然からのインスピレーションについて、愛着をもたらす色と形について、これからのテクノロジーに求められるデザインについて語りました

石ころから水滴まで、デザイナーが目を向けるもの
──2025 年のミラノ デザイン ウィークでの Google のテーマは「Making the Invisible Visible」です。なぜこのテーマを選び、展示を通してどのようなメッセージを伝えたかったのでしょうか?

アイビー ロス(以下、ロス) デザイナーとして、私たちは魔法を生み出します。何もないところから何かを生み出し、それをプロダクトにするわけです。私たちは今回、いつもならユーザーには見えないアイデアがどう生まれ、どのように形になっていくのかを見せたいと思いました。人々が見るのは最終的な製品であり、その背後にある考えには触れることがないからです。

だから今回の

では、Google Pixel デザインチームがインスピレーションを感じたものを並べています。石ころから岩や水滴まで、私たちに考え始めるきっかけを与えてくれたものを。

それから、私たちは常に技術的な制約の中でデザインをする必要がありますが、そうした技術的なものを超えたところからインスピレーションを得たいと思っていることも伝えたいと思いました。

柴田文江(以下、柴田) Google というとすごく大きなグローバル企業なので、ある意味遠い存在のような気がしていたんだけど、展示されていたのはどれも私たちに身近なもの。ロスさんが、肌に触れる質感や人間味のある暮らしを大事にされていることが展示から分かりました。

──柴田さんはよく、デザインでは「形が持つ湿度」をコントロールされているとおっしゃっています。湿度という「見えないもの」を考えることについて教えていただけますか?

柴田 私たちの身体のほとんどは水分でできていて、湿度を持っていますから、同じ暮らしの中に取り入れるものも、しっとりしたものであったほうが使いやすいと思うんです。例えば私が以前デザインした KINTO のウォーターボトルは、実際は湿っていないけれど、形がしっとりしていると思っています。

ロス そうですね。

柴田 こうしたしっとりした形を作るために、私も水の表面張力を意識しているんですよ。ですので「Making the Invisible Visible」で、ロスさんも表面張力の形にインスピレーションを得て Google Pixel Watch シリーズのディスプレイをデザインされていることを知って、びっくりしたんです。

ロス 私たちが水に注目したのは、コロナ禍のときでした。前代未聞の事態を前に「これからどうなってしまうんだろう?」とチームで話しているときに目を向けたのが、私たちにとって常にインスピレーションの源である自然の要素。なかでも水は、個体、液体、気体と、状態を変化させることができます。だから私は、この期間にこそ水に答えを求めるべきだと思いました。コロナの時代に、私たちも水のように別の状態に変化しなければいけない。それと同時に、きっと水のように元の状態にも戻ってこられるはずだと。だから水は、私にとってとても大切なものなのです。

未来のデザインはもっと原始的でなければいけない
──目に見えないものといえば、感情もその一つです。 Google のデザイン哲学である「エモーショナル デザイン」について教えていただけますか?

ロス デザインスクールやデザインの仕事を通じて、「デザイン思考」についてはよく耳にしますよね。でも「デザインフィーリング」を考えてもいいのではないかと思いました。なぜならものの触り心地は、人がどのように感じるかに直結しているからです。私たちは製品を作る際に、「そのデザインを最初に見たときにどんなふうに感じてほしいか?」を問うようにしています。驚かせたいのか、喜ばせたいのか、それとも好奇心を刺激したいのか。そして実際に製品をユーザーの前に置いたときに、彼ら、彼女らが使う言葉に着目します。それがデザイナーの意図するものであった場合はすごくうれしいですね。

Google 製品をデザインする際にデザインフィーリングが重要なのは、テクノロジーが私たちのパートナーとしてそばにあり続けるものだからです。だからこそ私たちは、それをただの冷たい物体にするのではなく、感情を呼び覚ますものにしなくてはいけません。そこに意味や感情を見いだせれば、私たちはより愛着を持てますから。感情(emotion)とは、動きのあるエネルギー(energy in motion)のこと。だから感情は、実際に感じることのできるエネルギーなんですよ。

Google デバイスのチーフ デザイン オフィサー、アイビー ロス
アイビー ロス:Google デバイスのチーフ デザイン オフィサー。スマートフォンからスマート スピーカーに至るまでハードウェア製品ファミリーのデザインを指揮し、250 を超えるグローバル デザイン賞を受賞。手触りがよく、大胆で、感情に触れる Google ハードウェア製品のデザイン美学を確立した。ジュエリー デザイナーとしての経歴も持ち、スーザン マグサメンとの共著に『アート脳』がある。
──柴田さんは、使い手にどのような感情を抱いてほしいと思いながらデザインをされていますか?

柴田 やっぱり、それを使った人が自由を感じられるようにしたいといつも思っています。私たちは暮らしの中でいろいろなものを使わなければいけませんが、デザインの主張が強いと、ものによって縛られることもあると思うんですよね。そうではなく、あくまでも主体は皆さんの暮らし。暮らしがメインになるようなものづくりをしたいなと思っています。

そうした前面に出て主張をすることのないデザインをするためにも、形というのはとても重要です。その形によって、私たちはものを愛用するだけでなく、ものに愛着を持つことができると思うんです。例えば紙コップって、毎日のように使うから愛用はしているかもしれませんが、これに愛着を持つことはないじゃないですか。その違いは形で作っていけると思っています。私は形に対するこだわりが強いので、シンプルに見えますけど、すごく綿密に時間をかけて作っていますね。

ロス でもあなたが紙コップをデザインしたら、私はきっと愛着を持つと思いますよ(笑)。私たちのデザインチームでは、そのように綿密に作られたものを「思いやりのあるデザイン」と呼んでいます。デザインのあらゆる側面、あらゆる決定に対して思いやりを持つことは本当に大切ですよね。

──柴田さんはテクノロジーのデザインを手掛けることについて、2015 年のインタビューで「プリミティブ」や「原始的」という言葉を使っていらっしゃいます。なぜデザインの先は原始的かもしれない、あるいは原始的であるべき、と思うのか、改めて教えていただけますか?

柴田 コロナ禍を経験して、人間らしくあることが本質だということに、私たちはますます気付くようになったと思うんですよね。だからテクノロジーも進めば進むほど、それはもっとナチュラルになるはず。そしてデザインとはテクノロジーと人間の間にあるもの、テクノロジーと人間をつなぐのがデザインの役目だから、これからのデザインは新しい技術を、まるで息をするように使えるものにしないといけないと思うんです。結果として、テクノロジーを使いながらも、本当に人間がありのままの状態でいられることが、進んだ未来なんじゃないかと思っています。

ロス テクノロジーは私たちのパートナーとして、デザインとしてもインターフェースとしても、滑らかなものになりたがっていますよね。最初は「テクノロジー」という独自のカテゴリがあって、例えば携帯電話も黒一色で、角張ったようなデザインでした。ただ、テクノロジーがますます身近なものになった今、それは私たちにとってより自然で、親しみやすい存在でなければいけないと私も思います。

柴田 原始的であるということと、より自然であるというのは、同じことですよね。

ロス ええ。『アート脳』という本を執筆する過程で人類学者と話す中で学んだのは、人類が地球上に存在してきた時間の 99.8% は自然の中で生活をしてきたということです。人工的な環境で過ごしてきたのは 0.2% に過ぎない。だから私は、自然の中にいることが私たちの本来の性質だと思うんですね。私がデザインに取り入れる柔らかいカーブや水の要素といったものは全て、人類が大部分の時間を過ごしてきた自然に、無意識のうちにつながるための方法だと考えているんです。

プロダクト デザイナーで、デザインスタジオエス代表の柴田文江さん
柴田文江:プロダクト デザイナー・デザインスタジオエス代表。エレクトロニクス商品から家具、医療機器、ホテルのトータルディレクションなど、国内外のメーカーとのプロジェクトを手掛ける。エル・デコインターナショナルデザインアワード照明部門グランプリ受賞、Red Dot Award Best of the Best、iF Design Award 金賞など受賞歴多数。多摩美術大学教授。著書に『あるカタチの内側にある、もうひとつのカタチ』がある。
手触りと色があるから愛着を持てる
──柔らかいカーブのほかにも、お二人は共に自然の色をよく使っています。正しい色、正しい形を選ぶことは、お二人の仕事にとってなぜ重要なのでしょうか?

ロス 色とは波長です。その波長から、私たちは色の雰囲気を感じることができます。学生時代、ある先生からひとつの色をした大きな円を 1 時間見つめるように言われたことがあります。その色が何を伝えているのかを感じるようにと。だから私は、色とは感情を伝える媒体だと考えているんです。

私がスマートフォンのデザインを始めた頃、その 90% が黒でした。私たちデザインチームは、黒以外の色も必要だと考えていたのですが、それを理解してもらえるまでは苦労しました。でもそれから、私たちは少しずつカラーを加えていきました。とはいえそれは目立つ色、色名を分類しやすい色ではなく、柴田さんが使っているストーン(石)やモス(苔)のような「控えめな色」をです。そうした色の選択肢があれば、やがて人はスマートフォンに異なる感情を抱いてくれるようになることを、それが愛着のあるものになることを私たちは信じていました。

だから今、少しずつ黒以外の色を選ぶ人が増えていることにワクワクしています。今では緑系のカラーが黒と同じくらい人気です。それから色は、社会で起きていることも反映しています。人々がサステナビリティや環境のことをますます語るようになった時代に私たちが緑を追加したのは、色はその雰囲気やムードを通じて、特定の態度を映すものだからです。

形についてはすでに触れましたが、自然界では柔らかいカーブは安全を意味し、鋭い形は危険を意味します。尖った形は動物の角に見られるもので、私たちは円形の洞窟に逃げ込んだわけです。だから無意識のうちに、人間は柔らかい形に心地よさを感じるのだと思います。

柴田 私の場合はデザインするアイテムに本当に幅があるので、そのアイテムによって色の決め方もまったく違うんですけど、基本的には「マテリアルそのものの色」を大事にしています。実際は着色していたとしても、その素材にフィットする色というのは、やっぱりあるんですよね。そういうものを常に探しているように思います。

ロス 製品にふさわしい色を使うということは私たちも考えています。例えば、スマートホーム製品をデザインするときのカラーパレットはスマートフォンとはまったく異なります。家庭の中にある素材や、どこで使われるのかといった文脈を考えなければいけません。ワイヤレスイヤホンやウォッチバンドの色を考えるときには、たくさんの肌のトーンに合わせて確認するようにしています。

写真左が Porcelain カラーの Google Pixel 9 Pro、右はドライフラワーが生けられた、磁器の一輪挿し。
柴田さんが手に持っているのは Google Pixel 9 Pro(左)。右の動きのあるふっくらとしたかたちが印象的な SACCO の一輪挿しは、柴田さんのデザインしたプロダクトで、偶然にも Google Pixel デザインチームのインスピレーション源の一つとして「Making the Invisible Visible」会場で展示されていたもの。こんなところにも二人のデザイン思考の共鳴を感じることができる。
──Google のスマートフォン「Google Pixel 9 Pro」をデザインするときに意識したのはどんなところでしょうか?

ロス スマートフォンメーカーはどこも、カメラをどうデザインするかに頭を悩ませています。レンズが大きくなり、その数が増える中で、どうやって配置をすべきだろう? と。私たちは数年前からカメラバーを導入していますが、Google 製品の特徴である柔らかいカーブを生かしつつ、必要なものを全て収められるような形を作れないかと考えました。そうして Google Pixel 9 Pro では、バーを大胆に強調して、美しい縁を持つカメラレンズのようなデザインが誕生しました。

そして面白いことに、最終的にできたカメラバーが Google の検索バーに似ていることに気付いたんです。当初はまったく意図していなかったことですが、これは正しいデザインに違いない、と話しましたね。というのも、デザインチームとしてはこれまでのモデルとは違いを出しつつも、Google のアイデンティティを残して、より特徴的なスマートフォンにしたいと思っていましたから。本体のマット感にカメラバーの光沢感を加え、柔らかさを保ちつつもカメラの高級感を強調する、ジュエリーと言ってもいいような仕上がりだと思っています。

柴田 カメラ機能に対する要望はますます大きくなっていると思います。Google Pixel 9 Pro のロスさんのデザインは、カメラのプレミアム感や信頼性をカメラバーのデザインで担保しつつ、でもスマートフォン全体としては手なじみがよく、「自分のもの」と感じられるようなソフトな仕上がりになっている。そのコントラストがきれいにまとまっていますよね。持った感じは昔ながらの道具を思わせるんだけど、でもやっぱり、すごく新しさを感じます。

「心地よさ」を育むデザイン
──最後に、このデジタル時代に物理的なプロダクトを作るデザイナーの役割や責任についてお伺いしたいと思います。スクリーンに囲まれ、暮らしの中にオンライン体験がますます増えている今、「心地よい」と感じるものを作ることがなぜ大事なのでしょうか?

ロス 物理的なプロダクトは、ますます特別なものになっていくと思います。例えば本の世界を見てみると、今ではオンラインで本を読むことができて、それは素晴らしく便利なサービスです。それによって誰もが「紙の本がなくなってしまう」と危惧していました。でも、紙の本は消えていないどころか、むしろその価値が高まっています。以前にも増して、コーヒーテーブルに置かれたアートブックを見るようになりました。

これが意味するのは、物理的なものがより特別で、大切にされるものになっていくということ。だって私たちは、こうしたものにこそ愛着を持つのですから。

デジタル時代が進むにつれて、もの自体は減るかもしれない。でもその代わりに、ものはますます特別になり、私たちは丁寧に身の回りのものを選び、物理的なものはより貴重で意味のあるものになっていくでしょう。だからこれまで以上に、デザイナーは必要とされるようになるはずです。

柴田 昨年に続き、今年も Flexform から新作を発表しているのでミラノ デザイン ウィークに来ているんですけど、一方で私は、日本ではテクノロジーを使ったプロダクトやロボットのデザインもしています。そうしたテクノロジーを使ったものと人間らしいものづくりは共存させていかなくちゃいけないし、人間らしさを暮らしの中に取り入れやすくするのはデザインの役割だと思うんですね。

ロスさんがおっしゃったように、私たちの身体はもう何千年も前から基本的に変わっていないので、やっぱり触り心地のいいものは、みんな気持ちがいいと感じるもの。そういったことを、デザインの力でいつでも思い出してもらえるような仕事をしていきたいと思っています。

どんなに未来になっても、私たちはキツい洋服を着て、硬いものを触りたくなるわけじゃない。人間が心地よさを求めることは変わらないはずなので、そういうことを大事にしてこれからもデザインをしていきたいですね。

プロダクト デザイナー柴田文江さんと Google デバイスのチーフ デザイン オフィサーのアイビー ロスによる対談風景

Google のアイビー ロス(デバイス部門の​チーフ デザイン オフィサー)と、プロダクト デザイナーの柴田文江さんが共に語ってくれたのは、テクノロジーに手触りを与えるデザインの必要性、心地よい手触りの大切さでした。

そんなデザイン哲学は Google Pixel シリーズにも反映されています。エモーショナル デザインから​​生み出された​​スマートフォンやウォッチ、ワイヤレスイヤホンの実物をぜひ手にして、その質感や、呼び覚まされる感情を感じてください。

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