Google Store 表参道店 | 寺山紀彦さんの新作アート作品
Google の「端材」がアートになるまで——Google Store 表参道を彩る、寺山紀彦さんの新作
Google 製品を扱う日本 1 号店「Google Store 表参道」。その地下 1 階に飾られているアート作品を手掛けたのが、寺山紀彦さんです。寺山さんのアトリエを訪ね、作品が生まれるまでの物語を聞きました。
2026 年 9 月 11 日
- Google Store 表参道の地下 1 階には、美術作家・寺山紀彦さんが Google 製品の端材から生み出した 2 つの新作アートワークが飾られています。
- 作品の制作は、Google から届いた端材を「切ったり、引っ張ったり、濡らしたり」素材そのものとの対話から始まりました。
- 寺山さんの制作スタイルは、ユーザーにとっての心地よさを大切にする Google の「エモーショナル デザイン」とも響き合っています。
海まで歩いて数分。神奈川県の二宮駅からすぐの場所に、老舗の洋品店を改装した築 60 年のアトリエがあります。もともとは低かった天井を解体し、梁を出した高さのある空間には、糸、紙、ワイヤー、そして作りかけの作品たちが、静かに出番を待つように置かれています。
アトリエで迎えてくれた寺山紀彦(てらやま のりひこ)さんは、花や葉といった自然の素材を生かしたコンセプチュアルな作品で知られている美術作家です。
寺山さんと Google の縁は、2021 年までさかのぼります。ニューヨークにオープンする Google 初の実店舗に飾る作品を、寺山さんに依頼しました。
当時 Google のデザインチームから届いたメールに「最初は何かの間違いだと思った」と笑う寺山さんですが、作品は今でも店内を彩っています。
そして今回、日本の 1 号店を表参道に出店するにあたり、再び Google は寺山さんに声をかけました。
寺山さんが今回の作品の依頼を受けたのは店舗のオープン 3 カ月前のこと。依頼のあった 2 点の作品に共通する条件は、Google 製品の生産過程で生まれた「端材」を使うことでした。
寺山さんのアトリエには Google から届いたたくさんのダンボールが置かれていました。
「Google から送られてきた荷物の中身が、こんな素材だとは思わないですよね」。寺山さんが見せてくれた段ボールの中には、多種多様な素材たち。スマートフォンの原材料になっているガラス、金属片、鉱物、梱包材に使う紙、スマートウォッチのバンドに使っている布......。中には、一見すると製品のどこに使われているのか分からないようなパーツもあります。
想像を膨らませながら素材と向き合うのも、この制作ならではの楽しみだったそうです。
「素材が届いたら、まずはひと通り実験しました。切ったり、引っ張ったり、濡らしたり。断面がどうほつれるのか、縮むのか」。その中で今回は「できる限り素材をそのまま生かす」方向で、制作を進めていきました。
1 つ目の作品では、金属や布などの原材料の他に、ワイヤレスイヤホンの先についているイヤーチップなど、多種多様な素材の中から約 30 種類の素材を選びました。
異なる素材を整然と並べピンで板に固定していくのは寺山さんの代表的な制作スタイルの 1 つですが、普段は花びらや葉っぱなど、非常に小さくて軽いものが主な素材です。そのため、Google 製品の生産過程で生まれた端材——それも金属やガラスのような硬さや重さのある素材を扱うことは、寺山さんにとっても慣れない挑戦でした。
もう 1 つが立体作品。天井から吊るされる立体作品は、淡い色のバンド状の素材を、ワイヤーの構造体に一巻きずつ巻きつけて作られます。
ところどころ二重、三重に巻いて太さに変化をつけた、増殖する生き物のような有機的なフォルムです。
複雑な形をしていますが、設計図はありません。事前にフォルムをスケッチすることも、カーブを計算して図面を引くこともありませんでした。
当初、寺山さんはおおまかなイメージを頼りに、作品全体をひと続きに作り進めていました。気になるところは、あとから直せばいい。そう考えていたそうです。けれど、素材を巻いて作るこれほど大きな立体物は、寺山さんにとっても挑戦的な作品。実際に進めてみると、途中の手直しだけでは全体のバランスが整いませんでした。3 〜 4 日かけて出来上がった最初の試作を途中で諦め、思い切って、ゼロから作り直すことを決めました。
試行錯誤を重ね、制作方法そのものを変えました。全体をいきなり作るのではなく、まず小さなパーツ単位の構造物をいくつも用意。それを置いてみては組み合わせを変え、しっくりくる形を少しずつ探していくやり方です。「こういう風にしよう、と考えて作るとダメなんですよ。それが分かったので」。
完成形のイメージがない中でも、「『これはいい、今ここで止めろ』という瞬間は、分かるんです」と寺山さん。手を動かし続けた先に、ピタッと決まる瞬間が不意に訪れ、手を止めるのだそうです。
取材で寺山さんのアトリエを訪れたこの日、アメリカ本社から Google のチームも、作品を見にやって来ることになっていました。店舗のオープンまで 1 カ月を切ったこの時点で、チームが実物を目にするのは、これが初めてのことでした。
「写真じゃ、作品のことは全然伝わらないんです。絶対に現物を見てもらったほうがいい。だから今日まで見せませんでした。皆さんはすごく不安だったと思いますけど(笑)」
途中経過を見せず、現物で勝負する。これは寺山さんが作品づくりで貫いているルールの 1 つです。いかにもアーティスト然としたこだわりにも聞こえますが、実は寺山さんは、待つ側の不安をよく知っている人でもあります。もともとデザイナーとして出発し、今もクライアントワークを続けているからです。デザインの実務では、丁寧にヒアリングを重ねて要件を固め、毎週の打ち合わせを欠かしません。
それでも、美術作家として作品の依頼を受けるときには、デザイナーとしての思考を完全に手放します。
「デザイナーとしての頭は一切入れないんです。最初にヒアリングをして、要件を決めて、手直しがないようにしよう。そういうことは絶対にしない。それをやったら、頼んでくれた意味がないので」
要件どおりに作れば、相手が想像できる範囲のものしか生まれない。想像の外側にあるものを届けることこそ、美術作家に依頼する意味だ、と。だから、不安にさせてでも現物で勝負します。
「相手が思っているよりいいものを作ればいいので。大丈夫です」
ところが、立体作品を実際に店内に吊り下げてみると、壁の広がりに対して、作品が少し小さく見えました。すかさず寺山さんは言いました。
「もっと大きいほうがいいですね。せっかくこんなに大きな壁をいただいているのに、もったいないですもん」
そして、こう続けたのです。「今日から 3 日間くらい、ここで作業できますか?」。
その場で道具を広げ、オープン直前の店内で、制作が再び始まりました。
実は 5 年前、ニューヨークの店舗でも、土壇場で作品に使った花の並べ方を変えたのだそう。空間を見て、その場に合わせて作品を育てていく——空間ごと作品にするような展示を重ねてきた寺山さんの真骨頂です。
作品はオープンの直前まで成長を続けました。
Google のハードウェアには、機能だけでなく、手にしたときの感触や心地よさを大切にする「エモーショナル デザイン」という哲学が息づいています。切れ端の断面の美しさに目を留め、素材の手ざわりを確かめるところから始まった寺山さんの制作は、その考え方と、静かに響き合っているように見えます。
の地下 1 階。階段を降りると、寺山さんの作品が目の前に広がっています。作品の前で少し立ち止まって、素材や形に目を凝らしてみてください。