身体に近づくテクノロジーと快適さのデザインとは?
アイウエアと Google Pixel が目指すもの
*本記事は、Google から外山さんに商品提供等の上、ご自身の利用体験をもとに対談を実施し制作したものです。
2025 年 10 月 24 日
スマートフォンや​スマートウォッチなどの​デジタルデバイスは​いま、​肌身離さず​携える​ものと​して、​ますます身体に​近い​存在に​なってきています。​そうした​テクノロジーの​快適さを​考える​上で​参考に​なるのは、​何百年も​前から​人々が​身に​着けてきた​「眼鏡」と​いう​テクノロジーかもしれません。
2025 年 9 月、​東京を​訪れた​ Google デバイスの​チーフ デザイン オフィサー、​アイビー ロスが​対談を​したのは、​日本を​代表する​アイウエア デザイナーの​外山雄一さん。​身体に​携える​プロダクトを​デザインする​二人が、​心地よさの​デザイン、​テクノロジーと​デザインの​バランスの​取り方、​そして、​日本の​美意識に​学ぶことに​ついて​語りました。
アイビー ロス(以下、ロス) クラシックさが感じられると同時に、その洗練された細部がモダンな印象を与えているところが素晴らしいと思いました。南青山のお店にも伺いましたが、非常に賑わっていて、どんな人も自分に似合う眼鏡を見つけられるバラエティがある。と同時に、そのすべてが時代を超えて愛されるような眼鏡だと思います。
私も​ずっと​昔に​アイウエアを​デザインしていた​ことがあります。​私たちは​みな​顔の​特徴を​持って​生まれてきますが、​眼鏡を​かけることに​よって、​私たちは​その​特徴を​自ら​選ぶことができる。​その​選択肢を​与えてくれる​ところが、​眼鏡と​いう​プロダクトの​素晴らしい​ところだと​思いますね。
ロス テクノロジーを身に着ける際には、まるで何も着けていないかのように感じられることが大切です。つまり、身体にぴったりとフィットし、テクノロジーを身にまとっていることにすら気づかないほど快適なものにするということ。テクノロジーはその存在感をなくし、背景に溶け込んでいかなければいけない。それが Google Pixel デザインチームがいつも大事にしている考え方になります。
外山雄一(以下、外山) 機能的でありながら長く愛用したいものは「意味のあるデザイン」であることも重要だと考えています。なぜその造形か? なぜその素材か? そこに理由があって、使う人もその理由を理解していること。デザインという、ある種表層的な魅力に、機能や効能といった意味がひもづいていることが、普遍性につながっていく。心地よいデザインに大切なのは、その普遍性を作り手と使い手が共に共有できていることではないでしょうか。
そうした​心地よさを​追求する​ために、​僕らは​日本で​製造を​行い、​ベータチタニウムと​いう​素材を​こだわって​使い、​お店で​行う​フィッティングも​大切に​しています。​快適性を​考える​ことは、​顔に​かける​眼鏡と​いう​プロダクトの​永遠の​テーマだと​思っています。
もう​一つの​こだわりは​カラー。​眼鏡には​黒いフレームも​あれば、​クリア系の​カラーも​あるじゃないですか。​黒を​使えば​かける​人の​「眼鏡を​目立たせたい」と​いう​気持ちを​かなえ、​クリアカラーを​使えば​「眼鏡を​顔に​なじませたい」と​いう​気持ちを​かなえます。​眼鏡を​その​人の​顔の​一部に​していくのか、​もしくは​その​人の​「なりたい​自分」の​イメージに​近づける​ために​あえて​眼鏡を​浮かせるように​するのか。​デザイナーと​して​色を​選ぶ​ときには、​その​ 2 つの​アプローチを​考えるようにしています。
ロス 外山さんはもともとグラフィックデザインを学ばれていたとお聞きしましたが、私はいつも、アイウエアのデザインとはグラフィック的な要素が強いものだと思っているんです。顔との関係性を考えながら、どんなフレームの形や色、フォルムを描いていくのかを考えるわけですから。だから外山さんが、グラフィックからプロダクトに、しかもアイウエアのデザインに携わるようになったことはふに落ちますね。
それから​私も​ジュエリーを​デザインしていた​ときに、​よく​チタンを​使っていました。​丈夫でありながら​もの​すごく​軽い​素材ですからね。​そう​やって​素材に​気を​使っていると​いう​点で、​私たちには​共通点が​あると​思います。​眼鏡も、​スマートフォンも、​形が​シンプルであるが​ゆえに、​素材や​色、​表面の​質感、​そして​それらが​どう​組み合わさるかに​違いが​現れてきますから。
ロス 音楽は数学であり、数学とはパターンに関するものです。そしてデザインもまさに、パターンと形を考えるもの。だからすべてがつながっているんですね。
私の​父親は、​自動車の​工業デザイナーでした。​彼の​オフィスには​いつも​あら​ゆる​種類の​マテリアルが​散らばっていて、​私は​幼い頃に​父に​連れられて​そうした​素材で​遊んでいた​ものです。​そう​やって​私は​ものを​作り始めたのです。​それからやがて、​音楽が​振動であり、​パターンも​私たちも​みな​振動である​ことを​理解していく​中で、​この​世界の​形や​パターンの​見え方が​養われていく​ことになった。​そうした​体験が​私の​原点に​なっているのだと​思います。
外山 実は僕自身も、家で音楽が流れていたり、 母がフォークギターを弾きながら歌を歌っていたりと、音楽が生活の一部になっていた幼少期の環境が現在のクリエイティブに影響しているんだと思っています。
だから​デザインを​する​ときにも、​音楽のように​考えている​ところが​あるんですよね。​例えば、​こう​やって​コップを​一度​叩いても​一つの​音でしかないですけど、​これを​連続させると​メロディに​なったりリズムに​なったりする。​そんな​ふうに​いろんな​楽器を​重ねる​ことに​よって、​一つの​音楽が​出来上がってくると​思うんです。​その​音楽が​できる​プロセスは、​僕が​ものを​作る​プロセスそのもの。​音楽と​同じように、​デザインも​一つ​ひとつの​要素が​つながっていく​ことで、​曲線や​形が​できていって、​リズム感が​生まれていくんです
それから​サンプリングミュージックのような​コラージュ的な​組み立て方、​ビートと​メロディの​組み合わせの​妙や​美しさは、​デザインの​バランスや​ディテール、​アイデアの​ヒントになっています。​アイビーさんの​お話を​聞いて、​自分も​デザインを​する​ときに​音楽的な​考え方を​しているんだなと​思いました。
ロス 私は Google における自分の役割を、オーケストラの指揮者だと思っているんです。私のチームではたくさんの人が働いていて、私の役割はもはや演奏者ではなく、それぞれの楽器の特性をよく理解して、演奏したい音楽やビジョンをみんなで奏でていくことだからです。そのために「ドラムをもう少し大きく」とか「そこは少し抑えて」といった指示を出すことが私の仕事になります。だから私はよく言うんですけど、チーフと呼ばれる立場に就くデザイナーは、演奏者ではなく指揮者にならないといけないんですよね。
外山 YUICHI TOYAMA. はもうひとりのデザイナーと僕の二人でデザインをしているので、頭の中で指揮をとりつつ身体は演奏もする、二人オーケストラですが(笑)
ロス 無理してチームを大きくしなくてもいいんですよ。私だってときにはまた演奏者に戻りたいと思うこともありますから(笑)
記憶に残るものをデザインしたい
ロス 私たちはまず、「形態は機能に従うべき」という考えから始めます。今年のスマートフォンには何台のカメラがあるのか、それはどれくらいの大きさなのか、センサーは搭載されているのか、と。例えて言えば、スープに入れるべきすべての材料を検討するわけです。でも、そのスープの混ぜ方にはいろいろな方法がありますよね。そこで、それらの材料をどう組み合わせれば納得いくものになるのか、ユーザーフレンドリーになるのかを考えていきます。
だから​その​プロセスは​常に、​エンジニアリングと​デザインの​バランス。​私たちデザイナーは​ユーザーの​体験に​対して​責任を​負っていますから、​ときには​私たちから​エンジニアに​要望を​出したり、​逆に​エンジニアから​要望を​受けたりする。​「もっと​これを​大きく​したい」とか​「もっと​太く​してほしい」とか​いった​エンジニアからの​リクエストに​対して、​「デザインの​点では​こう​あるべき」と​返すこともあります。​これは​まさに​ダンスのような​もので、​必要な​機能を​与えつつも、​その​見た​目の​美しさや、​人々が​それを​手に​取り、​使った​ときに​どう​感じるかと​いった​ことにも​満足できるような​解決策を​探っていくんです。
外山 眼鏡も同じで、やっぱり、かけ心地というのは絶対的に必要になってきます。特に眼鏡は直接顔に当たるものなので、自分でも何度も試すなかで最適解を探っていく。そういうことを職人さんたちと話して、彼らとの話をベースに僕らが図面を描くというプロセスをとっていきます。この先、仮にいろいろなテクノロジーが眼鏡に入ってきたとしても、そのかけ心地だけは絶対に外せないものだと思っていますね。
ロス その通り。心地よさは決して妥協してはいけません。特に顔にかける眼鏡というのは、何にも増してパーソナルなものですからね。知り合いに眼鏡からコンタクトレンズにしようかと迷っていた人がいますが、結局「眼鏡をかけている今と同じくらいスマートに見えないから」という理由でコンタクトにはしなかったんですよ。
外山 僕も眼鏡を外して道を歩くと、裸で歩いているような気分になります(笑)。そうやって眼鏡は人の見た目を変えるものだけれど、僕はその先の、かける人の「こういうふうになりたい」という願望をかなえることで、その人の気持ちも変えていけるくらいのテーマを探し続けたいと思っているんです。
ロス それこそがまさに「
外山 Google Pixel が大切にしているエモーショナル デザインというデザイン思想について知って、僕も考えるようになったのですが、やっぱり「人の記憶に残るものって何だろう?」ということを考えながらデザインをしていますね。
ロス 人の心に残るのは、ものそのものよりも、それを通じて感じたことですよね。人に会ったときや美しいものを見たときに、あなたが何を感じたかこそが記憶に残るのだと思います。
ロス 私たちチームはまず、これから人々がどんな色を求めるのかに影響を与えるであろう社会的な要素を洗い出します。それから、従来までのモデルにもあるクラシックなカラーと遊び心あるポップなカラーのバランスを考えながらカラーパレットを作っていく。そしていつも、私たちはそれぞれのカラーに異なる感情を込めることを意識しています。
Google Pixel 10 Pro の​ Moonstone は​私の​お気に入りで、​これは​私が​「色の​ない色」と​呼ぶ​もの。​黒でもなければ白でもないけれど、​クラシックな​趣きを​持つ​程よい​色合いに​なっています。​ただの​シルバーではなく、​青みがかった​ニュアンスも​ある。​そして​マットな​サテン仕上げの​表面と、​光沢の​ある​縁の​部分の​コントラストも​気に入っています。​きっと​これまで​ずっと​黒を​使っていた​人にも​受け入れられる​ものになっているでしょう。​黒同様の​洗練さを​放ちつつ、​どこか​新しさを​感じさせる​ものとして。
対して​ Google Pixel 10 の​ Indigo は、​エネルギーを​感じさせ、​活力と​躍動感の​ある​色に​なっています。​そして​こちらは​光沢の​ある​表面も​特徴です。​ですから、​Moonstone と​ Indigo は、​まったく​異なる​ 2 つの​タイプの​人たち、​異なる​感情を​意識した​プロダクトになっていると​思います。
外山 言葉では言い表せないつかみ心地だったり、筐体(きょうたい)の角の取り方や幅、表面のテクチャーに、アイビーさんがおっしゃっているようなフィーリングを感じています。そして何と言っても、この使い勝手の良さですね。使っていくことによって気づく、削ぎ落とされることで生まれる力強さや潔さ、そういったところに、勝手ながら日本らしさを感じてしまっています。
と​いうのも、​僕も​眼鏡を​作る​ときには​日本らしさを​大切に​していて、​例えば​この​ U-171 と​いう​モデルも、​日本の​職人さんだから​できる​フィニッシングなんですね。​「SURFACE」を​テーマに、​上が​フラットな​水面で​下が​湖底を​描いているような​湖の​断面図に​インスピレーションを​得て​作っているのですが、​顔に​当たる​アンダーリムの​部分は​丸く​しつつ、​上側は​削りっぱなしに​なっている。​これは​一度ちゃんと​眼鏡と​して​完成させた​後に、​最後に、​削りっぱなしの​「未完成さ」を​出すために​仕事を​もう​一つ​増やす、と​いう​プロセスに​よって​出来上がっているんです。
ロス 美しいですね。そんな仕上げの方法は見たことがありません。そして Google Pixel のデザインが日本的だと感じていただけたのは、これ以上ない褒め言葉ですね。というのも、私は少ないものでも、その一つひとつが完璧であれば多くのことを成し遂げられるというような、日本的な引き算の美学にとても共感していますから。
私たちが​努めているのは、​デザインの​対象を​最も​シンプルな​形に​保ちつつ、​その​あら​ゆる​側面を​美しく、​魅力的に​仕上げる​こと。​その​ために、​例えば​ある​モデルの​最適な​色合いや​光沢具合を​選ぶためだけに、​何日も​何日も​費やすことがあります。​テクノロジー企業である​ Google では​当初、​「仕上げの​方法を​見つける​ために​どうして​ 2 カ月も​かかるんだ?」と​言われた​ものです。​でも​出来上がった​プロダクトを​見て、​彼らは​それだけの​時間が​必要であった​ことを​理解してくれました。
美しさとは、​より​少ない​ことの​中に​あります。​だから​眼鏡であれ、​スマートフォンであれ、​そこには​余分な​要素が​あってはいけないんですよね。​形態は​機能に​従うべきですから。
20 代の​頃、​デザインの​仕事で​年に​ 5 回は​東京を​訪れていたと​いう​ Google の​アイビー ロス(デバイス部門の​チーフ デザイン オフィサー)。​それを​聞くと、​彼女の​デザイン​思想に​日本の​美意識が​影響を​与えているのも​納得かもしれません。
テクノロジーを​使っている​ことに​すら​気づかない​ほど​快適な​使い心地を​実現する​ために、​引き算しながら​吟味された​素材や​色、​表面の​質感。​エモーショナル デザインから​生み出された​ Google Pixel シリーズの​ディテールに​ぜひ注目してみてください。
Text by Yuto Miyamoto、Photo by Kotaro Yamamoto